連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その8≫

 2021年12月15日に、菜園家族じねんネットワーク日本列島Facebookページhttps://www.facebook.com/saienkazoku.jinen.network/に掲載した、連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その8≫を、以下に転載します。

 なお、新プロジェクト“菜園家族じねんネットワーク日本列島”の趣意書(全文)― 投稿要領などを含む ― は、こちらをご覧ください。

【連載】気候変動とパンデミックの時代を生きる ≪その8≫
 ―避けられない社会システムの転換―

――CO2排出量削減の営為が即、古い社会(資本主義)自体の胎内で次代の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動する社会メカニズムの提起――

◆ こちらから全文をダウンロードできます。
気候変動とパンデミックの時代を生きる≪その8≫
(PDF:296KB、A4用紙3枚分)

おはじき

◆CSSK特定財源による彩り豊かな国土と民衆の生活世界の再生◆

 道路やハコモノなどといわれてきた従来型の大型公共事業への財政支出では、工事執行の限られた期間だけにしか雇用を生み出すことができません。工事が終了すれば、基本的には道路やダムやトンネルなどといった大型建造物は公共財として残るものの、雇用は即、喪失してしまいます。
 したがって、国・地方自治体や企業は、新たな需要を求め、また、失われた雇用を維持確保するためにも、さらなる大型公共事業を、現実の社会的必要性を度外視してでも、繰り返し続けなければならないという悪循環に陥ります。

 当初はそれなりに時代の要請に応えて行われてきたかつての大型公共事業が、莫大な財政赤字を累積し、国民からしばしば「ムダ」と汚職の温床と批判され、次第に精彩を失っていったのは、こうした事情によります。

 このような従来型の大型公共事業に対して、先に触れたCSSK特定財源による、CO2排出量削減と「菜園家族」創出・育成のために投資される新しいタイプの「公共的事業」であれば、事情は一変します。

 このCSSK特定財源によるいわゆる「菜園家族インフラ」への投資、つまり、「菜園家族型公共的事業」であれば、従来のような巨大ゼネコン主導の大型技術によるものではなく、地場の資源を生かした地域密着型の中間技術による多種多様できめ細やかな仕事が生まれてきます。その結果、雇用も地域に安定的に拡充され、森と海を結ぶ流域地域圏は次第に活性化していきます。

 その上、この「菜園家族型公共的事業」であれば、財政執行の期間だけではなく、執行後においても、週休(2+α)日制の「菜園家族」型ワークシェアリングのもとで、CSSKメカニズムをバックに新しく地域に生まれる「菜園家族」そのものが、いわば新規の安定した恒常的「雇用先」となり、しかも永続的な「職場」として地域に確保されることになります。
 つまり、新しく生まれる「菜園家族」の構成員にとって、「菜園家族」それ自体が、もっとも身近で生活基盤に密着した、多品目少量生産の創造性豊かな、魅力あるまったく新しいタイプの「職場」になるのです。

 それにともない、「菜園家族」や「匠商家族」向けの住居・店舗や作業場・手工芸工房などの建築、農機具や家屋の修理・リフォーム、農道・林道の補修や圃場整備など、さらには、農作物加工、木工、工芸品の製作等々、中間技術による多種多様で細やかな仕事が生まれ、地域独自の特色ある持続可能な地場産業が育っていきます。

 それだけではありません。未来を担う子どもや孫たちにとってこの上ない「菜園家族」という人間形成の優れた場が地域に創出されることになるのです。それこそ本物の“自然循環型共生地域社会”という素晴らしい公共財が構築され、後世に継承されていくことになります。

 国土の至るところに「菜園家族」や「匠商家族」が誕生し、そのネットワークが広がりを見せはじめると、地方中小都市を中核とする森と海を結ぶ流域地域圏も、ようやく長い眠りから覚め、次第に甦っていきます。
 これまで大都市に偏在し集中していた人々は、「菜園家族」や「匠商家族」の魅力に惹かれ、地方へと移りはじめ、中山間地にも奥山にも、「菜園家族」の暮らしは広がっていきます。国土全体に均整のとれた配置を見せながら、平野部や山あいへと、土地土地に馴染んだ「菜園」と居住空間が美しいモザイク状に広げられていきます。

 こうして人々が山に入るにしたがって、針葉樹のスギ・ヒノキに代わって、ナラやブナやクリなどの落葉樹や、クスやカシやツバキなどの照葉樹も次第に植林され、森林の生態系は大きく変わっていきます。暗い針葉樹の人工林から、彩り豊かな明るく美しい山々に姿を変えていくのです。山あいを走る渓流や大小さまざまな湖、平野を縫うように流れる川や、突き抜けるような海や空の青さも甦っていきます。

 国土の7割を占める広大な山村地帯。過疎高齢化に悩み、瀕死の状況に陥っている限界集落。手入れ放棄によって荒れ果てた森林、土砂災害の頻発。平野部の農村・漁村コミュニティの衰退・・・。「菜園家族」による森と海を結ぶ流域地域圏の再生そのものが、こうした現状を克服し、地域分散・地域自律型の国土利用と地域の人々の助け合いを可能にする基盤構築につながっていきます。

 これこそが、従来型の大型ダムや巨大防潮堤等々、ハード対策だけに頼るのではない、本来あるべき災害対策ではないでしょうか。災害発生時の対応のみならず、日常普段からの防災・減災を視野に入れ、森林、渓流、河川、平野、海、人間の居住空間など、自然と人間の生態系を全一体的に捉えた長期国土計画に基づく災害対策が、気候変動時代の今、求められているのです。

 こうした地域分散型の均衡ある国土構造への転換は、同時にパンデミックの抑制と防止、それがもたらす社会経済の混迷の根源的克服にもつながるはずです。
 CSSK特定財源による「菜園家族型公共的事業」は、自然の豊かさと厳しさに向き合いながら、日本の国土に、かつての大型公共事業からは想像だにできない、多様で美しい民衆の生活世界を築きあげていくことになるのです。

 このように考えてくると、このCSSKメカニズムをバックに展開する「菜園家族型公共的事業」は、今日ますます深刻化する雇用問題や経済の行き詰まりを打開する緊急経済対策として有効なばかりでなく、長い目で見ても、日本の風土に調和した原発のない脱炭素社会、そしてパンデミックにも耐えうる社会的免疫力に優れた自律的生活世界、つまり、「菜園家族」を基調とするCFP複合社会を経て、素朴で精神性豊かな自然循環型共生社会(じねん社会)への道を切り開く、決定的に重要な役割を果たしていくに違いありません。

『生命系の未来社会論』(小貫雅男・伊藤恵子、御茶の水書房、2021年3月)第七章をベースに再構成。

≪その9≫につづく

(2021.12.15 里山研究庵Nomad 小貫・伊藤)