Facebookページの掲載記事(2021.10.29)
2021年10月29日に、菜園家族じねんネットワーク日本列島Facebookページhttps://www.facebook.com/saienkazoku.jinen.network/に掲載した記事を、以下に転載します。
なお、新プロジェクト“菜園家族じねんネットワーク日本列島”の趣意書(全文)― 投稿要領などを含む ― は、こちらをご覧ください。
【ある農山村の地域再生の試み ~三重県勢和村~】
10月19日にはじまった今回の衆院選は、あと2日を残すのみとなりましたが、本来であれば、これまでの社会経済のあり方を根源的に見つめ直し、コロナ後の私たちの生き方、そして社会はどうあるべきかを、長期ビジョンのもとにじっくり考える絶好の機会であったはずです。
にもかかわらず、目先の利得に終始する「その場凌ぎ」の聞こえのいいかけ声に掻き乱され、いつしか多くの国民の思考も、「選挙」という大がかりな魔術にかけられたかのように、うやむやのうちに元の木阿弥の世界に閉ざされてしまったようです。
人間の生きる場である「地域」や「職場」の現実から出発し、どんなに時間がかかっても、遠い未来を見据えて、足もとから一つひとつ積み上げていくことが、いかに大切であるかをまたしても痛感させられました。
こうした思いから、今あらためて着目したい小さな「地域」があります。
三重県中部、高見山地の支脈の森林と2つの河川(櫛田川、宮川の支流の濁川)に抱かれたおだやかな農山村・多気郡勢和村(2006年、多気町と合併)。
ここでは、地元の農家の取り組みと村の図書館の活動がユニークな形で融合し、地道で楽しい地域づくりが続けられてきました。
私たち里山研究庵Nomadが、初めてこの村をお訪ねしたのは、今からもう16年も前の2005年5月。地元で自然農を営む「野呂ファミリー農場」の野呂由彦さん・千佳子さんご夫妻や、勢和図書館司書の林千智さんを中心に、地域のみなさんの並々ならぬご熱意によって、ドキュメンタリー映像作品『四季・遊牧 ―ツェルゲルの人々―』(三部作、7時間40分)が、5月のシリーズ企画として、毎週土曜日に1部ずつ3回に分けて上映されることになり、その最終回5月21日、第Ⅲ部の上映&トークの集いに参加させていただいたのでした。
この日は、上映前、朝9時30分から、図書館前の広場で、ヤギの乳しぼり見学も行われました。
ヤギは、ご夫婦揃って愛農学園農高(三重県伊賀市)で学ばれた野呂さんが飼われており、そのうち、村の小学校で可愛がられているものもいました。
子供たちは、母ヤギの乳を一生懸命吸い、広場を跳ねまわるかわいく元気な仔ヤギたちに触れ、大喜び。上映がはじまっても釘付け、なかなか離れられない様子でした。
勢和村を挟むようにして流れる2つの河川のうち、櫛田川は高見山地・香肌峡に、また宮川は「近畿最後の秘境」大台ヶ原に、それぞれ源を発し、伊勢湾に注いでいます。
2005年当時の集いには、地元・勢和村の陶芸家ご夫妻や小学校の先生、自然観察会に取り組む方をはじめ、この2つの雄大な「森と海を結ぶ流域地域圏」の各地からも、多数、熱心にご参加されました。
奥山のむら(飯高町・飯南町・宮川村など)からは、自然木シイタケ栽培に取り組む中堅農家や、農林業に携わる若いご家族、そして、平野の都市(松阪市・伊勢市)からは、多彩なご活動に取り組む市民の方々も・・・。
会終了後も、心あたたまる土地の手づくり料理を囲みながら、話が弾みました。
勢和村は、この2つの「流域地域圏」のちょうど真ん中に位置しています。司書の方々を核に、生き生きと楽しい企画を続ける勢和図書館は、単に本の貸し出しだけにとどまらず、地域の今を考え、行動し、未来を拓こうとする「流域地域圏」の個々の人々を結び、子供たちからお年寄りまで世代を超えて、互いを励まし合う文化・教育、地域づくりの素晴らしい拠点の役割を果たしているようです。
2017年7月1日には開館20周年を迎え、その記念として、光栄にも再び『四季・遊牧』(ダイジェスト版)の上映会が開催され、監督・撮影の小貫が、12年ぶりに再訪しました。
上映会後、図書館の20周年を祝う集いでは、村の小学校の校長先生までもが、ジーパン姿でギターを抱え、若者たちとともにバンド演奏を披露。拍手喝采が湧き起こり、にぎやかな雰囲気に包まれました。
野呂さんをはじめ、村の人々の地道な取り組みの中で、この間、都市から勢和村に移り住む若い人たちや家族もあらわれ、地域づくりにも新たな息吹が芽生えていました。
村の地元の工務店が、空き農家を今風に住みやすく改装し、小さな住宅展示会を開き披露するなど、都市からの移住者受け入れの構えも手がけられていました。
未来への予感に浸りつつ、帰路に就いたのでした。
あれからまた時が過ぎました。その後どのようになっているのか、現地からの生のお便りが楽しみです。
(2021.10.29 里山研究庵Nomad 小貫・伊藤)