連載 “高次自然社会への道” のむすびにかえて

連載 “高次自然社会への道”
―自然との再融合、原初的「共感能力」(慈しむ心)再建の可能性―
≪むすびにかえて≫

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連載 “高次自然社会への道” の
≪むすびにかえて≫
(PDF:354KB、A4用紙4枚分)

パンデミックの闇のさなか
分断を乗り越え
どよめき湧き起こる
共感の熱き思い。
 そこに
 人類始原の原初的「共感能力」再建の
 新たな時代の可能性を見る。

星々が広がる青い宇宙

 今から3年前の新型コロナウイルス・パンデミックのさなか、2021年元旦の夜、久しぶりにNHK教育テレビ放映のウィーン・フィル ニューイヤーコンサートに聴き入る。
 無観客のウィーン大ホールでの巨匠リッカルド・ムーティの円熟したタクトと、そこから奏でるエンディング「美しく青きドナウ」のゆるやかな音響に、なぜか今年は格別の思いに引き込まれていく。
 オーストリアの人々にとって、「美しく青きドナウ」は、第二の国歌であるという。
 指揮者マエストロは、締め括りのあいさつの言葉をこう結んだ。

 私たちは
 人を殺す武器ではなく
 人々を癒やし、喜びを与える
 花を持っている。
   分断された人々に
   明日への希望と勇気を与え
   一つにする
   花を持っている。

 無観客のはずの大ホールから、錯覚か夢か、大きな歓声と拍手のどよめきが湧き起こる。やがてホールの外の世界各地の人々が、さまざまな人種の違いを超えて一体となる。いつまでも鳴り止まない歓喜と明日への希望の余韻に浸る。

 音楽家にとって、音楽は仕事ではなく、使命であるとも言う。その使命を伝えるために、音楽家は働いている。それは、この社会をよりよいものにするという使命である。これが音楽に携わる者に与えられた矜持であり、せめてもの使命である・・・。

 その年80歳を迎えた老練の大家は、この苦しい時代に音楽家として生きる覚悟を人々に語りかけたのである。パンデミックが世界を震撼させた中での静かで控えめではあるが、確信に満ちた力強いメッセージであった。
 人はみな誰しもそれぞれに、それなりの使命が与えられている。その使命に真っ正面から愚直なまでに取り組むことではないのか。それが自らの主体性を強め、孤高の精神を持する第一歩であることをマエストロの言葉は訴えかけてくる。

 新型コロナウイルスは、いまだに謎が多い。世界各地で変異を繰り返しながら、たちまちにして世界中に拡散、人間どもの弱点をしぶとく突いてくる。
 世界の一部の指導者は、問題の根源に向き合うどころか、逆に民衆の怒りを煽ることで人気取りを図ってきた。特にわが国では、経済を回すのか、感染拡大防止か、この両者の間で常に揺れ動いた。根源的問題からは目を反らし、すべてが後手後手に回り、混迷に混迷を重ねてきた。
 こうなる根本にある原因については、既に縷々述べてきた。それは究極において、未来への展望、つまり確たる未来社会論の不在、欠如にある。このことは、為政者に限らず、国民の側にも等しく言えることである。

オリオン座 暗黒星雲(馬頭星雲)

 今なお続く超大国間の覇権抗争。その延長線上のウクライナ戦争、ガザにおけるジェノサイドとも言うべき凄惨な虐殺。「反撃」、「報復」の連鎖。わが国権力者は、世界に誇る平和憲法を平然と踏みにじり、この機に乗じて大軍拡を押し進める。阪神・淡路大震災、東日本大震災から能登半島地震に至るまで、相次ぐ災害を契機に露わになる列島各地の「地域苦難」の現実。それらの根底にあるものは何なのか・・・。

 今国民が切実にもとめているものは、何よりも明日に希望を見出すことのできる確かな展望と、未来への納得できる具体的な道筋ではないのか。それがたとえ時間がかかり、困難が伴うものであっても、その確かなものをもとめている。
 それを可能にするのは、何よりもまず、自由で開かれた議論のための恰好のたたき台が具体的に次々出され、議論が活発になることであろう。それを特に「研究者」と呼ばれる人々それぞれが、本気で考えているかどうかなのである。
 とりわけ若者たちは、コロナ災禍の苦しい体験を経て、自らもその輪に積極的に加わり、前へと進めていくことを心から望んでいる。そこにこそ、生きる力をもとめているのではないか。次の新たな時代をつくるのは、若者たちなのである。

 新型コロナウイルスの感染拡大以降、いつにも増して鈴鹿山中のこの奥山に籠もりがちの中で、折々に地元・大君ヶ畑(おじがはた)集落の方々から声をかけていただき、あるいはまた、これまでの研究・調査活動などで交流を重ねてきた全国各地の旧知のみなさんと、電話やお便りを通じて触れ合うことが何よりの励みとなってきた。
 特に冬の間は、深い雪の中、細い坂道の上までの郵便や新聞の配達、灯油を運んでくれる青年、雪かきに駆けつけて下さる村の方々に、どれだけ支えられてきたことか。人と人とのつながりが断ち切られた今、その大切さにあらためて気づかされる。

 パンデミック真っただ中の2021年の年頭に、偶然とは言え、幸運にも視聴した無観客の中でのリッカルド・ムーティの確信に満ちたあの力強い言葉が、世界中を巻き込みかねない戦争の暗雲が立ちこめるこの混迷の時代にあって、日々懸命に生きるすべての人々の心に届くことを願わずにはいられない。

  今や世界は倫理敗北の時代に

オリオン座大星雲(上下をトリミングしたもの)

 米中露、三超大国を基軸に
 先進資本主義諸国入り乱れての
 覇権抗争の時代。

   欲にまみれた
   見苦しい
   恥ずべき姿。

 国民主権を僭称する
 一握りの政治的権力者は
「国民の生命・財産を守る」と喧伝し
 分断と対立と憎しみを煽り
 民衆同士の
 凄惨な殺し合いを強制する。

   これほど人間を
   大掛かりに蹂躙し殲滅する
   極悪非道の大罪はあるのか。

 今や世界は
 生命を蔑ろにして恥じない
 倫理敗北の時代に突入している。

  人が大地に生きる限り

朝の琵琶湖(2023.12.3)

 今こそ
 自然観と社会観の分離を排し
 大自然界の生成・進化を貫く
 「適応・調整」(=「自己組織化」)の原理を
 両者合一の普遍的原理に止揚し
 社会変革のすべての基礎におく。

   生命系の未来社会論 具現化の道
  「菜園家族」社会構想の根底には
   人々の心に脈々と受け継がれてきた
   大地への回帰と止揚(レボリューション)という
   民衆の揺るぎない歴史思想の水脈が
   深く静かに息づいている。

 まさにこの民衆思想が
 冷酷無惨なグローバル市場に対峙し
 大地に根ざした
 素朴で精神性豊かな生活世界への
 新たな局面を切り拓く。

朝日・雲

   根源から時代を問い直し
   醜い欺瞞と反動の
   闇夜を引き裂く
   夜明けの歌よ。

 世界は変わる
 人が大地に生きる限り。

       ――― ◇ ◇ ―――

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2024年5月10日
里山研究庵Nomad
小貫雅男・伊藤恵子

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